食物繊維の最新事情と活用法について、腸内細菌研究の第一人者・内藤裕二さんにお聞きしました。
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摂れているつもりの食物繊維。でも実際の目標量はどのくらい? そしてより腸内環境に効果的な食物繊維の摂り方とは? 腸内細菌と消化器の専門家が、1日の現実的な(!)目標摂取量と腸活界隈の注目ワードを解説。食物繊維の最前線を探ります。
目標は1日25g、まずは+3gを意識して

野菜や穀物に多く含まれているイメージのある食物繊維。身近な存在ではあるけれど、果たして私たちの食生活で十分摂れている?
「最新の研究ではWHO(世界保健機関)が推奨している1日25g以上が目標量。これはもちろんお腹の調子を整えるだけでなく、生活習慣病のリスクなど一生の健康を考えると最低でもこれ以上は欲しいという目安です。実際、全粒粉のパンやシリアルを日常的に食べる欧米諸国は達成率が高い一方、白米や精製した小麦を多く食べる日本人は不足気味。特に女性は摂れている人でも1日18gほどでしょう。とはいえいきなり摂取量を増やすと、腸に負担がかかるので段階的に増やすことが大切です」
世界基準からはやや遅れ気味の日本の女子の食物繊維量。そんな現状を踏まえて内藤さんが提案する初期目標は「+3g」。
「たとえば6枚切りの全粒粉食パンを1枚プラスすれば約3g。それくらいならできそうですよね。あとは豆を生活に取り入れる。手作りの豆料理というと大変だけど、茹でた豆の缶詰をスープやサラダに足すだけでも十分です。麺類が好きな人なら、ランチをそばにしてみるのも手。そばの食物繊維は1食(200g)で約3gなので、簡単に+3gが達成できます」
他にもきのこを冷蔵庫に常備して、炒め物や味噌汁に足してみる。また定食でひじき、昆布などの海藻類の副菜を積極的に取り入れてみるなど、方法はいろいろ。まずは+3gから始めて、段階的に増やしていけば無理なく1日25gを達成できるかも。
話題の発酵性食物繊維とは。腸内環境にどう作用する?

腸内で発酵する食物繊維、その名も「発酵性食物繊維」が、いま熱い注目を集めている。
「平たく言うと腸内の善玉菌のエサになる食物繊維のことを発酵性食物繊維と呼びます。食物繊維は人の消化酵素で分解されにくいので、ほぼそのままの形で小腸を通過し大腸まで届き、そこで腸内細菌によって分解され、発酵されるのです」
その発酵の過程で“短鎖脂肪酸”というエネルギー源に変換される。この短鎖脂肪酸が腸活の大注目株。
「たとえば腸のバリア機能を高める酪酸や、食欲をコントロールして食べすぎを防ぐ酢酸、糖の代謝を高めるプロピオン酸など。今後は食物繊維を多く摂ることに並んで、その食物繊維の発酵性の高さも注目されるようになるでしょう」
では、この発酵性食物繊維を多く摂るにはどんな食材が最適?
「全粒穀物、特に小麦ふすまの含有量はダントツ。豆類では発酵されやすいイヌリンやオリゴ糖を多く含む大豆やひよこ豆。野菜ではオクラやゴボウに多く含まれています。一方で腸内細菌が分解して作ったエネルギーがカロリーとして吸収されるので食べすぎには注意。また腸が敏感な人は多く摂るとガスが溜まってお腹が張ることも。そのために大事なのは幅広い食材を摂ること。いろんな発酵性食物繊維を摂れば発酵スピードが異なるので急なガスの発生を抑えられます。もちろん非発酵性の食物繊維も、腸内の不要な物質を体外に排出する役目を持っているので、植物食材を中心にバランスよく食べてくださいね」
Profile
内藤裕二
京都府立医科大学大学院教授。専門は消化器病学、消化器内視鏡学、抗加齢医学、腸内細菌叢。著書に『健康の土台をつくる 腸内細菌の科学』(日経BP)、『人生を変える賢い腸のつくり方』(ダイヤモンド社)など多数。
anan2456号(2025年7月23日発売)より