
フードエッセイスト・平野紗季子さんの「MY STANDARD GOURMET」。今回は『75foods(ナナゴーフーズ)』の週替わり弁当です。

週替わり弁当(各1500円※税抜き)、プラムシロップソーダ※シーズンによりシロップは異なる(700円※税抜き)。
「これから区役所に寄るから2つ取り置きできる?」「はーい、いってらっしゃい」。8月に生まれたばかりの店が、もう何年もここで季節を過ごしてきたみたいに、街の歩幅にぴたりとなじんでいる。お弁当とお惣菜と小さな喫茶の店『75foods』は、松陰神社前の街角で今日も店を開ける。
主役のお弁当は、豆板醤香味ソースの唐揚げを、甘めの卵焼きを、ひとくちふたくち運ぶたびに、心がほどけていくのがわかる。特別さと安心の、どちらも感じられる味。人を元気にさせるというよりも、人の力が戻ってくる場所を黙って空けてくれているような、やさしさの味。「スペシャルなものだけじゃ疲れちゃう。自分が毎日食べたいのは家庭料理だから、そういうものを作りたかったんです」と、店主の吉森なな子さん。あの、お弁当界のスーパーアイドルこと『chioben』で4年半の日々を経た彼女は、色とりどりのおかずに、糠床でいい具合に漬かったお漬物に、地元の秋田から届くあきたこまちをふっくら炊き上げ、手仕事の味をキッチンから送り出す。
忙しない毎日にあって、きちんと手間をかけて生み出される家庭料理は、ときに、きらびやかな外食よりも尊い。どんなにへとへとでも食べられる。ちゃんとお腹が空いてくる。そんなお弁当があるのだという、その事実だけで、なんだかいろんなことが大丈夫だと思えるのだ。
Profile
平野紗季子
ひらの・さきこ 1991年生まれ。フードエッセイスト。著書に『ショートケーキは背中から』(新潮社)、『おいしくってありがとう』(河出書房新社)など。
Information

75foods
東京都世田谷区世田谷4-20-3 飯塚アパート102 11:30~17:30 日~火曜休
anan 2468号(2025年10月22日発売)より





























