今回は、お仕事編。会社内だけでなく、取引先など社外の人も含め、仕事の場面で取るべき距離感は、悩ましいもの。踏み込みすぎて失礼がないよう、だけど誠意が感じられるようなスマートなふるまいを目指して!
お悩みに答えていただいたおふたり
犬山紙子さん
いぬやま・かみこ イラストエッセイスト。著書に『私、子ども欲しいかもしれない。』『女の子に生まれたこと、後悔してほしくないから』など多数。
Pocheさん
ポッシュ 心理カウンセラー。人間関係、親子問題、機能不全家族などが専門。著書に『あなたはもう、自分のために生きていい』『SNSのモヤモヤとの上手なつきあい方』など。
お悩み ①|雑談に潜む緊張感…

会社で、時事問題や芸能ニュースなど人によって意見が分かれる話題を振られたときに身構えてしまいます。自分の価値観や意見に自信を持っていたい気持ちと、相手と意見が食い違ってがっかりされたり距離を置かれる怖さが両方あるのですが…。

A. 「 “感想”として伝えて相手の意見を尊重する」(Poche)
大切なのは正解を言おうとするのではなく、「私はこう感じた」と感想として伝えること。さらに「○○さんはどう思いますか?」と聞くことで、自分の発言が押し付けがましくならず、自然に気持ちを表現できます。意見が違っても「なるほど」「そういう見方もあるんですね」と返せば対立を避けられますし、尊重する姿勢も伝わって好印象です。会話の雰囲気がやわらかくなり、少しずつ話すのが怖くなくなっていきますよ。
A. 「意見を明言しないのは防衛という名の処世術」(犬山)
芸能ニュースだったら、無理して乗っからず興味がないという体で「へえ、そうなんですね」と聞き役に徹してしまいましょう。難しいのは、政治などの話題が絡んでくる時事問題のほう。暗に相手の考えをディスるような形にはなりたくないですよね。信頼できる関係性であれば、自分の意見をはっきり言っていいでしょうけど、仕事の場では防衛という意味でも、意見や立場を必ずしも明言する必要はないと思います。
お悩み ②|根性vs効率…

昔ながらの根性論ぽい考え方の上司と、イマドキな効率重視の先輩の指導内容が食い違っていて困っています。

A. 「より身近な立場の人に相談してみる」(犬山)
自分がどちらのやり方に、より共感できるかが大事だとは思うのですが、とはいえ片方を否定したくもないもの。もしその先輩が信頼できる人なのであれば、「私もそのやり方を実践したいのですが、上司の○○さんからは、こんなふうに言われているんです」と率直に相談してみては? あるいは指導された人とは別の、年の近い先輩に聞いてみてもいいでしょう。きっと同じような板挟みに遭って、悩んだことがあるはずなので。
A. 「無理のないやり方で納得できる方法を」(Poche)
まずは、どちらの意見にも一理あると受け止めておくことです。一方に偏らず冷静に話を聞くことで、信頼や関係性を崩さずにやりとりがしやすくなるからです。そのうえで、自分にとって無理のないやり方や納得できる方法を選び、「○○さんのアドバイスも取り入れつつ、今はこう進めてみますね」と丁寧に伝えるのがおすすめです。意見の板挟みになったときこそ、自分の軸を持ちながら柔軟に対応する力が育まれますよ。
お悩み ③|文章を深読みしてしまう…

「この絵文字の意味は?」「“。”が付いてるってことは怒ってる?」「丁寧な文だけど嫌みを言われてる?」など、メールや社内チャットの文面を深読みしてしまいます。

A. 「自分の気持ちを認めて一呼吸おいてみて」(Poche)
文面を深読みする背景には、「相手に嫌われたくない」「失礼になってないか不安」といった気遣いや不安が隠れていることも。そんなときは自分がどう感じたかに目を向け、「今ちょっと不安なんだな」「相手に○○って思われたくないのかも」と気持ちを認めてみてください。そうすることで、相手の反応に振り回されず、自分の気持ちを落ち着いて整理できるようになります。一呼吸おくことも、自分を守るひとつの方法です。
A. 「気にしすぎを自覚してその理由を探ってみる」(犬山)
ひとりで悩んでいても埒が明かないと思うので、友達に話して笑い飛ばしてもらうなどして、気にしすぎていることを自覚しましょう。そしてなぜ深読みしてしまうのか、理由を考えてみてください。そうすると、自分に自信がなかったり、対人関係に苦手意識があったりなど、何かしら問題の根っこにたどり着けるはず。相手に対してアクションを起こすというより、自分のメンタルをケアする方向にいってほしいですね。
お悩み ④|距離感ブレーキ&アクセル…

進学や就職で新しい環境に置かれたとき、なかなか自分から人に話しかけられません。かと思えば逆に少しでも仲良くなると過剰に自己開示してしまい、距離感を掴むのが苦手です。

A. 「自己開示は素敵なこと。少しずつ知り合う努力も」(Poche)
自己開示したくなるのは、それだけ心を許せる相手だったということで、とても素敵なことです。もし「開示しすぎたかも…」と後悔しても、慌てなくて大丈夫。そのあと少しペースを落として相手の様子を見たり、「さっきはちょっと話しすぎちゃったかも」と笑って軽く伝えるだけでも、自然な距離感に戻しやすくなりますよ。過剰な自己開示で後悔することが多い場合は、“少しずつ知り合っていく関係”を意識してみましょう。
A. 「バウンダリーを意識して相手の距離感を真似する」(犬山)
「人は人、自分は自分」というふうに、バウンダリー(自分と他人の境界線)を意識するよう心がけてみては。バウンダリーが曖昧な人は、悲惨なニュースなど無関係な人の痛みや苦しみを自分ごとのように感じて、傷つきやすいと思うのです。手っ取り早いのは、相手の距離感の真似をしてみること。会話のしかたやテンポ、メールのテンションを合わせていくことで、ちょうどよい距離感が徐々にわかってくるかもしれません。
お悩み ⑤|立食パーティでのふるまい方
歓送迎会や交流会などの立食パーティが苦手です。話の輪に出入りするタイミングを考えているうちに取り残されてしまいます。
A. 「大抵の人は苦手なはず、仲間を見つける感覚で」(犬山)
立食パーティって、得意な人のほうが少数派なのではないでしょうか。ひとりでたたずんでいると、周りからかわいそうだと思われそうで、つらいですよね(笑)。そもそもスマートにふるまっているように見える人は、緊張しない程度の権力や顔の広さを持つ、パワーのある人だったりします。そのほかの人は、苦手なのだと認識して。そして同じような属性の人に話しかけてみて、仲間を見つけられるといいですよね。
A. 「近くの人に声かけを。小さな一歩が居場所に」(Poche)
近くにいる人に「はじめまして」「どちらのご所属ですか?」と、まずは声をかけてみるのがよいかもしれませんね。話の内容よりも、誰かとつながっているという安心感が心をほぐしてくれます。無理に輪の中心を目指さず、端からそっと入るだけでも大丈夫。また、自分と同じように輪から離れている人に「一緒にいませんか?」と声をかけてみるのも◎。小さな一歩が、安心できる居場所を作るきっかけになりますよ。
イラスト・SAKIPON 取材、文・兵藤育子
anan 2447号(2025年5月21日発売)より