
香港映画と香港カルチャーが大好きな、ぼる塾の田辺智加さんと酒寄希望さんが、東京にいながら香港気分を味わえる「香港贊記茶餐廳(ホンコン チャンキーチャチャンテン)飯田橋店」へ。香港生まれのオーナー、チャン・マンワイさんと、現在公開中の映画『旅立ちのラストダンス』について、美味しい料理をいただきながら語り合いました。
Index
What?

映画『旅立ちのラストダンス』とは?
邦題『旅立ちのラストダンス』が意味するのは、「破地獄(はじごく)」という道教の伝統的な葬儀儀礼のこと。若くして亡くなったり、事故で亡くなったりした、“本来の寿命を全うできずに死んだ者”が安全にあの世へ渡れるよう、地獄の門を破って魂の通り道を開く儀式とされる。
物語の舞台となるのは、九龍半島・紅磡(ホンハム)という、葬儀店が集まるエリア。やむを得ず葬儀業者に転職した中年男性トウサンと、葬儀を取り仕切る道士であり、伝統を重んじるマン師匠が、衝突しながら互いの価値観を受け入れていく。
香港映画界の伝説的コメディアン、マイケル・ホイとダヨ・ウォンが、32年ぶりにスクリーンで顔を合わせたことでも話題に。第43回香港電影金像奨では、過去最多タイの18部門でノミネ―トされ、5部門を受賞。批評家から2024~2025年において「最も力強い香港映画の一つ」と絶賛された。
人気コメディアンがシリアスな本作でまさかの共演
酒寄 『旅立ちのラストダンス』は香港で大ヒットしたそうですが、特にどういうところが香港の人に響いたのか気になりました。
マンワイ マン道士を演じているマイケル・ホイと、トウサン役のダヨ・ウォンは、香港ではとても有名なコメディアンで、このふたりの共演というのがまず大きかったと思います。
田辺 えっ、コメディアンなんですか!?
酒寄 マイケル・ホイは、70~80年代のコメディ映画『Mr.Boo! ミスター・ブー』シリーズで有名ですよね。私も大好きな作品なのですが、今回はまったく違う雰囲気の役でびっくりしました。
マンワイ そうなんです。誰もが知っているふたりが共演しているから観たいと思った人は多いはずです。
田辺 笑えるシーンのほうが少ないくらいだったので、うまく想像できないのですが、どんなコメディアンなんでしょう?
マンワイ ふたりともものすごく弁が立って、マイケル・ホイは早口でまくしたてるような広東語のおしゃべりが面白い人。ダヨ・ウォンはスタンダップコメディで人気があります。そんなふたりが、葬式とか死がテーマの映画に出ることがとても意外でした。
田辺 香港の人たちにとっては、そのギャップも見どころだったのですね。私はこの映画でおふたりのことを知ったので、これから彼らのコメディを観る楽しみもできました。
酒寄 私は葬儀屋さんのお話っていうこと以外、あえて前情報を入れずに観たのですが、途中から泣いちゃって、最後のほうは涙が止まらなくなってしまいました。泣ける映画なんだろうなとは思っていたけれど、予想外のところから感動が押し寄せてきちゃって。家族愛や死生観、伝統をどう守るかなど、日本人も深く共感できる部分がたくさんありました。
マンワイ 頑固で伝統を重んじるマン道士と、葬式をビジネスとして考えているトウサン。あるいはマン道士と何かとぶつかり合う息子や娘など、映画のなかで描かれているジェネレーションギャップに、香港の若い世代も共感したのではないでしょうか。香港人はコメディが好きだから、こういうシリアスなテーマは一見とっつきにくそうだけど、人間の情が丁寧に描かれているのがよかったですよね。
田辺 私は父親とあまり仲がよくないんですけど、マン道士と娘のマンユッの関係性に、思わず自分を重ね合わせてしまいました。いつまで反抗期なんだよ? って自分でも思うんですけど、マンユッみたいに父親と向かい合うとなかなか素直になれなかったりして…。親孝行は元気なうちにちゃんとしないといけないなって、映画を観て改めて思いました。その点、酒寄さんはお父さんとめちゃくちゃ仲がいいよね。
酒寄 そうなんです。それこそ『Mr.Boo! ミスター・ブー』は父親からおすすめされた映画だったりします(笑)。
そもそも道教って? 映画にまつわる素朴なギモン
田辺 香港と日本とでは、お葬式の雰囲気がまったく違うのにも驚きました。日本のお葬式はおごそかというか、しんみりしたイメージがありますが、映画で描かれている香港のお葬式は、「破地獄」っていう舞の儀式があったりして、勇ましさとか派手さも感じられて。今でもああいうお葬式が、一般的に行われているのでしょうか?
マンワイ そもそも宗教の違いがあるんですけど、映画で描かれているのは道教という宗教のお葬式です。もうひとつ、仏教のお葬式も香港では一般的で、今は仏教徒のほうが多いくらいですが、先祖代々続く大きな家や、裕福な家などは両方のお葬式を行うこともあります。とはいえどちらの場合も、現代のお葬式は簡素化されています。破地獄のような刀を持って舞う儀式なんかは、実際に見たことのない人のほうが多いんじゃないかな。そういうところも特に若い人には、新鮮に映ったのだと思います。
田辺 じゃあマン道士のように、死者をあちらの世界に送る人も今はあまりいらっしゃらないんですかね。
マンワイ 少なくなっているでしょうね。
酒寄 私は『霊幻道士』などのキョンシー映画が好きなのですが、そういえばあの映画にも道士が出てくるなと思って。
マンワイ キョンシーは古い言い伝えなどをモチーフにしていて、たしかに道教がベースになっています。実際の道教かどうかは別として、面白いですよね。
酒寄 面白いです! せっかくなので、映画に出てくる食べ物のこともお聞きしたいのですが、食堂の女主人が仕事で疲れたマンユッにスープを勧めたりするシーンが印象的でした。スープが特別な意味合いを持っているように感じたのですが、香港の人にとってどういう食べ物だったりするのでしょう。
マンワイ やっぱり“おふくろの味”みたいなものですね。たとえば暑い時期は体の余分な熱を逃すようなスープ、油っぽいものを食べたときは胃がすっきりするスープなど、季節や体調によって具材や味を変えます。女主人がマンユッの世話を焼くのは、母親を早くに亡くした彼女を不憫に思うのと同時に、本当の娘のようにかわいがっているからでしょう。
酒寄 そうなのですね。マン道士の好きな食べ物として出てくる、くるみクッキーもおいしそうで気になりました。
マンワイ 実は香港から取り寄せたのですが、これですよね?
酒寄 うわー、うれしい!
マンワイ マン道士が食べていたのはもっと大きいサイズでしたけど、最近はこのミニサイズのほうが食べやすくて一般的。やっぱりマン道士は子どもの頃から食べている、大きいサイズがお好みってことなんでしょうね。
なくなってほしくない香港の文化

懐かしそうに香港のことを語る、チャン・マンワイさん
マンワイ 私も若い頃は香港映画をよく観ましたが、やっぱりコメディが多かったかな。カンフー映画もたくさん観たけど、時代を問わず人気があるのはコメディですね。
田辺 私はそれほどジャンルを意識していませんでしたが、そういえば香港映画って、結構笑いながら観ていることが多い気がします。
マンワイ 映画館でも周りを気にせず、みんな大笑いしてますし、旧正月の時期には、スターが揃って出演する豪華なコメディ映画が封切られます。それも香港らしい文化といえますね。
田辺 この映画には、失われつつある香港の文化がたくさん描かれていると思うのですが、私はお茶の文化がなくなってほしくないです。香港のお店でお茶を頼むと、無限にお湯を注ぎ足してくれるじゃないですか。最初にやってもらったとき、驚きました。
マンワイ 飲茶のお店ですね。たしかに残していきたい文化のひとつです。
田辺 日本だと一回しかお湯を足してくれなかったりするから、茶葉がもったいないなあと思って。飲茶の文化は日本にも広まってほしいです。
マンワイ そしたらうちの店でも、おかわり自由なお湯のポットを置くことにしようかな。
田辺・酒寄 ぜひそうしてください!
来週公開の後編では、田辺さんと酒寄さんが愛してやまない香港の食と文化について、さらに深掘りして語ります!
Information

映画『旅立ちのラストダンス』
ウェディングプランナーのトウサン(ダヨ・ウォン)は、コロナ禍で多額の負債を抱え、葬儀業者への転身を余儀なくされる。結婚式と葬式は大きく異なり、さまざまな困難に直面。その最大の難関が、ともに葬儀を取り仕切る「葬儀道士」のマン師匠(マイケル・ホイ)に認められることだった。利益追求を第一とするトウサンと、伝統を重んじるマン師匠は、考えの違いから絶えず衝突。しかしマン師匠の息子で、選択の余地なく家業を継いでいるパン(チュー・パクホン)や、道士の素質を持ちながら女性ゆえにそれが叶わない娘のマンユッ(ミシェル・ワイ)など一家と関わるうちに、トウサンの心にも変化が。葬儀で行う伝統的儀式「破地獄」の真の意味に気づいていく。
絶賛公開中。映画『旅立ちのラストダンス』https://lastdance-movie.com/
Profile
酒寄希望
さかより・のぞみ 4人組お笑い芸人「ぼる塾」のメンバー。著書に、ぼる塾の日常や知られざるエピソードを綴ったエッセイ『酒寄さんのぼる塾日記』『酒寄さんのぼる塾生活』『酒寄さんのぼる塾晴天!』(すべてヨシモトブックス刊)がある。
田辺智加
たなべ・ちか 4人組お笑い芸人「ぼる塾」のメンバー。スイーツを愛し、著書に『あんた、食べてみな! ぼる塾 田辺のスイーツ天国』(マガジンハウス刊)がある。YouTube「ぼる塾チャンネル」ほか、「ぼる塾田辺の食べるわよチャンネル」も好評。
restaurant

香港贊記茶餐廳飯田橋店(ホンコン チャンキーチャチャンテン イイダバシテン)
東京都千代田区飯田橋3-4-1 マンワイビル1階・2階
11:30~23:00 無休 TEL. 03-6261-3365
























