街の小さな古書店が幹となって枝葉を伸ばす人と本の出合いの物語『本なら売るほど』

エンタメ
2025.04.21

児島 青『本なら売るほど』2

街の小さな古本屋「十月堂」を舞台にしたコミック『本なら売るほど』。その著者が児島青さん。一話読み切りの連作スタイルで、実在の本が登場したり、古書店の仕事のリアルがわかったり、古本を扱う商売の悲喜こもごもが描かれたりと、本好きの心をくすぐり話題沸騰だ。〈十月堂さん〉と呼ばれている店主は、古本屋修業をしたこともないのに、〈呑気そうでいいな〉といきなり脱サラしてお店を始めて6年目。

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街の小さな古書店が幹となって枝葉を伸ばす人と本の出合いの物語。

「彼のキャラクターは、“古本屋の主人”というワードから一般的にイメージしない人物像にしたいなと思ったんですよね。それで、若くてちょっと気さくなあんちゃん、みたいな雰囲気にしました。彼はもちろん、各回に出てくる人物はみな、耳かき1杯分ぐらい“著者である私の成分”が入っていますね。お店の感じも、仰々しくなくて気軽に入れるけれど実は掘りがいがあるような、自分の理想を託してみました」

2巻では、〈読み終わるまで絶対に死ねないくらい長くて面白い本〉を所望する訳ありの若い女性客が来店したり、1巻で“着物警察”的に出てきた中年女性の古本好きな夫も登場し、夫婦愛の片鱗を垣間見たりと、エピソードがさらにバラエティ豊かになっている。

「読み切りのつもりで書いた第1話から思いがけず連載が決まって…。古本も古書店も大好きなだけに、むしろその世界を長々と描いていったらイヤになっちゃうんじゃないかと、最初はためらっていたんです。けれど、人間関係の予期せぬつながりが描けたり、キャラクターを再登場させることができたりするので、人間の多面性を描ける。いまは連載ならではのやりがいを感じています」

出てくる人たちは本好きには違いないが、本とのつき合い方もこだわりも人それぞれ。その自由さがいい抜け感になっている。

「第4話の、本が読めない本の収集家〈ジョージさん〉への反響が結構ありましたね。『たくさん読めなくても本が好きだと言っていいのだと励まされた気がした』と。私も読むのが遅くて積ん読してしまうので、描けてよかったなと思いました」

トーンはデジタルで処理するが、ペン入れはアナログだという。初連載とは思えぬ画力や劇作力の高さに舌を巻く。

「わかりやすく奇をてらわず、というのは意識しています。でも、十月堂が着るTシャツの柄とかで遊ぶのはやめられないですね(笑)」

PROFILE プロフィール

児島 青

こじま・あお マンガ家。編集者にスカウトされ、2022年9月、漫画誌『ハルタ』に掲載した読み切り「キッサコ」でデビュー。本作を同誌で連載中。

INFORMATION インフォメーション

児島 青『本なら売るほど』2

この巻に登場する実在の本は、鴨沢祐仁『クシー君の夜の散歩』、中島らも『ガダラの豚』、通称“諸橋大漢和”(大修館書店発行『大漢和辞典』)等々。KADOKAWA 836円 Ⓒ児島青/KADOKAWA

写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子

anan 2443号(2025年4月16日発売)より

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