落語家の我々が演劇に出るワケ。春風亭昇太×柳家喬太郎、当代人気落語家対談

エンタメ
2025.04.19

人気落語家、春風亭昇太さんと柳家喬太郎さんが「落語家」役で出演する舞台、ラッパ屋 第50回公演『はなしづか』。本誌『anan』(2443号)の「Entertainment News」に掲載したインタビューに入りきらなかったインタビューを、WEBにてお届けします。

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独演会を開けばあっという間に大入り満員の人気落語家、春風亭昇太さんと柳家喬太郎さんが、俳優として舞台で共演。出演するのは、演劇好きなおふたりがもともとファンだったと公言する劇団ラッパ屋の第50回公演。

これまで市井に生きる普通の人たちの日常を描いてきたが、今回の題材はタイトルにもなっている「はなしづか」。戦時中、落語家たちが時局に合わない艶噺などを禁演落語と定め、その台本を埋めて塚を建てたという。ふたりの役は、もちろんその落語家たち──。

「東西の噺家の中で、喬太郎が最もバランスのいい人じゃないのかな」(昇太)

── おふたりはSWA(林家彦いち、三遊亭白鳥、春風亭昇太、柳家喬太郎の4人からなる新作落語の創作と公演をおこなう集団。創作〈Sousaku〉話芸〈Wagei〉アソシエーション〈Association〉が名前の由来)として一緒に活動もされていますが、噺家さん同士ってどういう関係性なんでしょう。同じ世界で生きる仲間? それともライバル意識みたいなものもあるんでしょうか?

春風亭昇太さん(以下、昇太) 人によって考え方は違うでしょうけれど、僕は僕以外の人をライバルだと思ったことがないんです。落語家って、自分が演出家でもあり出演者でもあって、僕の場合は噺を自分で作ってもいて、ひとりひとりが劇団みたいなもの。それぞれ違うことをやっている劇団だから、ライバルというより、仲間という感覚です。とくに喬太郎さんとは、一緒に新作を作っていますからね。後輩だと思ったこともあんまりないんだけど、なんか呑んだ後、レジの前に来ると急に先輩後輩の関係になるっていう…。

柳家喬太郎さん(以下、喬太郎) やっぱり上下関係がありますから、そんな差し出がましいことはできないですよ(笑)。でも僕もライバルというより、仲間という意識の方が強いです。ライバル視している人はいますけれど、それも仲間だと思っているし。だからSWAも楽しいです。同業でも普段接点がなくて、話したことのない方っていっぱいいるんですよ。多分そういう方と共演となったら、きっとどうしていいかわからなくて、ものすごく気を遣うと思うんです。今回は昇太兄(あに)さんがご一緒ということなので、楽しいし嬉しいです。もともとSWAのメンバーにも、兄さんが選んでくださいましたし。

昇太 そうなんですよ。SWAって、やっているときはむちゃくちゃ大変なんですけど、終わってみると、まあまた次やってもいいかなって思える集まりなんですよね。もともと僕は新作落語を主にやっているのもあって、新作落語の欠点は何か、その欠点をどうしたら潰していけるかをずっと考えてきていまして。普段はひとりで噺を考えているんだけれど、ネタを相談して、いろんな人のアイデアを入れてブラッシュアップさせていけるような場があったらいいなと思ったんです。そこで出来上がった噺はメンバーの誰がやってもよくて、人にやってもらって噺を熟成させていくことができたらと思って、その中で生まれたのがSWAという形。じゃあ誰とならやれるのかと考えたときに、白羽の矢を立てたのがSWAの3人。才能がある人とやりたかったんですよ。そのうちのひとりがこの人。

喬太郎 (ぴょこっと小さく頭を下げる)

昇太 僕は今、古典も新作もやる東西の噺家の中で、彼が最もバランスのいい人じゃないかと思っているんです。ここまでの領域には、なかなかちょっと行けないですよね。僕には僕なりのやり方があるから、こうなりたいわけじゃないけれど、表現力、創作力のバランスもいいし。あと足りないのはビジュアルぐらいじゃないですか。

喬太郎 これでビジュアルまでよかったら、世の中どうなっちゃうんでしょ。

昇太 なにせ、私服のビジュアルが酷すぎるんでね。

喬太郎 今日は比較的無難にまとめてみたんですけれど。

「昇太兄さんは、僕からしたらもはや別次元の存在でした」(喬太郎)

── 素敵だと思いますよ。ちなみに喬太郎さんから見た昇太さんとは?

喬太郎 なんでしょう…論評できない存在ですよね。先輩だからとか、目の前にいるからとかだけじゃなくて、僕が入門したときからすでにスターでしたからね。その頃はまだ真打にはなっていらっしゃらなかったけれど、二ツ目であんなに面白くて、あんなにキラキラしてて、あんなに売れてる方ってほとんどいらっしゃらないんじゃないのかな。もはや別次元というか、雲の上の存在だったから、「ああなりたい」とかすら思わなかったくらい。だから、一緒にやろうと声をかけてくださったときは、嬉しかったですよね。

噺家って上下関係の世界なんですけれど、昇太兄さんは、一緒に活動する上で、言いたいことが言えなくなっちゃうからフラットな関係でいようと言って、実際にそうやって付き合ってくださるんです。それでもたまに、先輩として意見してくださるときもあって。普段は優しい方だからこそ、すごく響くし勉強になることも多いし、おっしゃることに間違いがない。ありがたい存在です。

今、『笑点』の司会をされていて、正直言ったらSWAなんてやらなくたっていいわけですよ。お金は儲かるし、仕事はいっぱいあるし。だけど、やらずにはいられないんですよね。今や街を歩いていたら絶対に振り返られるくらいの人なのに、昔から全然ブレなくて、それだけでも尊敬に値します。僕からしたら、街を歩いていて知らない人に気づかれるなんて耐えられないですし。

昇太 大好きな立ち食いそばが食いづらくなるしね。

喬太郎 そうなんですよ。でも以前に新宿で立ち食いそばを食い終わって、店を出て5メートルくらい歩いたところで「喬太郎さんですか?」って声をかけられました。店の中でめっかんなくてよかったと思ってたら、その方が「もう少し前から気づいていたんですけれど、おそばを食べていらっしゃったから」って…。

昇太 見られてたんじゃねぇかって(笑)。

── 今回、おふたりは、鈴木聡さんが作・演出・主宰を務める劇団ラッパ屋の舞台『はなしづか』に出演されます。戦時中、時局に合わない不謹慎な噺として上演を禁じられた「禁演落語」を題材にした作品で、ともに噺家の役柄だそうですね。

喬太郎 ただ怖いのは、落語の世界を描くお芝居で、落語家の役をやるっていうことなんですよね。実生活に近いから楽といえば楽なのかもしれないけれど、単純に役に乗っかるだけじゃ面白くならないと思うから、どう距離を取ってどう客観視するか、これからの課題ですね。

昇太 そうそう。落語家の役じゃないといいなと思ってたけど、見事にふたりとも落語家の役だったという(笑)。

「ふたりとも演劇ファンなので、劇場のロビーでしょっちゅう会うんです(笑)」(昇太)

── それぞれに舞台や映像作品にも出られていますけれど、俳優として共演するというのも興味深いです。

昇太 世間の人が落語をどういうふうに見ているのかはっきりとはわからないけれど、たぶんちょっと“お笑い”のカテゴリーとして捉えている方が多いんじゃないかと思うんです。確かに笑いの多い噺をやってはいますけれど、カテゴリー分けするなら“演劇”のほうが近いんですよね。物語を紡ぐ方法が、演技かしゃべりかの違いで、もとのルーツは一緒じゃないかと思っていて、お芝居に出ることに違和感みたいなものはないんですよね。じつは僕もこの人も演劇ファンなので、仕事場で会わなくても劇場のロビーとか、座席が前後とかでしょっちゅう会うんですよ。「あれ? 来てたの?」って。

喬太郎 こっちも「どうも」とか言って。

昇太 だからそんな人とお芝居で共演できるっていうのは、楽しみですよ。そんなこと、たぶんこの先ないだろうと思いますし。

喬太郎 ほんとに、もうこんな機会はないかもしれないと思うと楽しみですよね。ただ、作品の中で僕が昇太兄さんを怒鳴りつけたり、喧嘩を売ったりするシーンがあったら、ドキドキするんでしょうね。こんなにお世話になってるのにな、なんて思いながらやるんだろうな(笑)。

昇太 今回、僕の役は、狂言回しの役割も担ってるんだよね。そういうの一番苦手なタイプなのに。

喬太郎 お腹の中で、お前がやれよって思ってますよね(笑)。

昇太 (笑)。

喬太郎 じつは今回、個人的に演劇に出られて喜んでる演劇ファンの自分と、落語マニアの自分がいるんですよ。例えば今回の舞台になった時代だと、うちの大師匠…(五代目柳家)小さんはまだ前座とか二ツ目で、四代目が生きてるんだなとか。(春風亭)柳昇師匠(昇太さんの師匠)ってまだ戦地にいるんだっけとか。復員してきたのはこの頃かなとか。そういう中で僕が噺家として出るということは、柳昇師匠よりも先輩になるのかとか。となると色物さんは、うちの協会(落語協会)は誰で、芸協(落語芸術協会)さんなら誰かなとか、そんなことばっかり考えちゃうんですよ(笑)。

「今の時代に合わず、禁演落語みたいなものがまた生まれてくるのかも」(喬太郎)

── タイトルの『はなしづか』は、第二次世界大戦中に禁演落語と定めた噺を供養するためにお寺の境内に建立した実在するものなんですよね。噺を葬るからと台本を埋めて塚を建てるっていう発想が面白いです。

昇太 あの時代に、よくあんな立派なものをお金をかけて建てたなと。

喬太郎 そんな金あるなら、他に使えって話(笑)。でもそれも一種のパフォーマンスだったんでしょうね。我々落語家も、こうやって国に奉公していますよっていう。

昇太 僕が所属している落語芸術協会では、いまも毎年法要をやってますからね。当時のことを、時代に振り回された落語家は可哀想だとおっしゃる方もいますが、僕はね、落語家ってそんな弱くないよって思ってるんですよ。戦争があって、笑いが不謹慎だと言われるようになっても、それを不幸だと嘆くよりご飯を食べていく術を見つけていくしたたかさがあると思っていて。

喬太郎 でも令和の今、コンプライアンスの問題でやりづらくなっている噺はありますよね。以前はすごくやっていたのに、自然と最近やらなくなっていったりして。

昇太 当時のように、やるなと言われているわけじゃないけれど、なんとなくお客さんの反応が変わってきて、やらなくなっているものはあるよね。僕らってお客さんの反応を見てネタを選ぶので、反応が悪いものはどんどんやらなくなるから。そういう意味では、落語に今の時代に合わない噺ってたくさんあるから。

喬太郎 もしかしたら禁演落語みたいなものって、これからまた生まれてくるかもしれないなって感じているんですよ。

PROFILE プロフィール

春風亭昇太

しゅんぷうてい・しょうた 1959年12月9日生まれ、静岡県出身。2006年より『笑点』(NTV系)に出演し2016年からは司会に。ドラマや舞台など俳優としても活躍。

柳家喬太郎

やなぎや・きょうたろう 1963年11月30日生まれ、東京都出身。舞台や映画で俳優としても活躍。2017年には映画『スプリング、ハズ、カム』で主演も務めた。

INFORMATION インフォメーション

ラッパ屋 第50回公演『はなしづか』

戦時下の下町。長屋に住む噺家の昇介(昇太)、喬次(喬太郎)、伊吉(ラサール)は友人にしてライバル。ある日、時局に合わない落語を禁演落語に指定するというニュースが飛び込んできて…。上演中~4月23日(水) 新宿・紀伊國屋ホール 脚本・演出/鈴木聡 出演/春風亭昇太、柳家喬太郎、ラサール石井、おかやまはじめ、俵木藤汰、岩橋道子、弘中麻紀、大草理乙子、岩本淳、中野順一朗、浦川拓海、宇納佑、熊川隆一、武藤直樹、ともさと衣、椎名慧都(劇団俳優座)、松村武(カムカムミニキーナ) A席6500円 B席5500円ほか(各種割引あり)●サンライズプロモーション東京 TEL. 0570-00-3337(平日12:00〜15:00) 

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写真・土佐麻理子 取材、文・望月リサ

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