
口コミで人気が広がり、一大ムーブメントとなっている今作の魅力は一体どんなところにあるのか? その秘密を探るため、作り手3人による座談会を開催! 今作を手がけたゲーム制作チーム墓場文庫のお二人と、集英社ゲームズの林真理さんのお話から、多くの人を夢中にさせた理由が見えました。これからやってみたいと思っている人はもちろん、すでにプレイし終えた人も必読です。
お話を伺った方々
Profile
林真理(まこと)
集英社ゲームズのシニアプロデューサー。コンシューマー、アーケード、モバイルと幅広く制作。『シュレディンガーズ・コール』『キャプテン・ベルベット・メテオ』などを手がける。
きっきゃわー
墓場文庫でシナリオを担当。イラストレーターとしてイラストや漫画を描いており、ゲームのキャラクターデザインを手がけることもある。『和階堂真の事件簿』シリーズから墓場文庫に参加。
ハフハフ・おでーん
墓場文庫でグラフィックとデザインを担当している。これまでに『サムライ地獄~九天魔城の謎~』『Worldfor Two』、『和階堂真の事件簿』シリーズなどのゲームを開発。プロレス好き。
さらに魅力を深掘り!
── たくさんの方が『都市伝説解体センター』をプレイし、楽しんでいる現状を、どのように感じていますか?
ハフハフ・おでーんさん(以下ハ) 思ってもいなかった大きな反響でまだ驚いています。この3年間、集英社ゲームズや周りのクリエイターさんたちと一緒に作ってきたゲームなので非常に嬉しいですね。
きっきゃわーさん(以下き) 昨日、オモコロさんにさらっとネタに使われているのがSNSで流れてきて、そんなところまで浸透していることがすごいなと。どんな形であろうと楽しんでもらえるのはいいことだなと実感しています。
── 大ヒットの理由を、みなさんはどのように考えていますか?
ハ まず、ユーザーさんの口コミの力がすごく大きいですね。みなさんが「このゲームを遊んでほしい!」とSNSでポストしてくださった結果だと思っています。
林真理さん(以下林) 僕は2つあると思っていて、一つはミステリーとしてのストーリーの面白さ。もう一つは、キャラクターの魅力が大きいのかなと。墓場文庫が生み出すキャラは、サブキャラも含めて愛せるというところも、ヒットの要因だと思います。
き ファンアートを描いてもらえたり、キャラクターの個々の名前を挙げながら「ここが好き」という話をしているポストも見ています。たった1話の、ほんのちょっとしか出てこないようなキャラクターにもたくさん言及してくださっていて、ありがたいことですね。
林 墓場文庫のドット絵は、人の気を引くという点において効いていると思います。色の少なさなど、イラストレーション的な強さがあり、普段ゲームをやらない人でも、イラストレーションとして興味が湧いたケースは多かったのでは。
ハ キャラクターデザインはきっきゃわーが担当して、ドット絵は僕が描いています。我々は『和階堂真の事件簿』というゲームを作った時に、低解像度のドット絵がミステリーやホラーと相性がいいことに気づきました。細部まで描かないからこそユーザーが脳内でディテールの部分を補完し、よりミステリアスになったり、怖くなったりするんじゃないかなと。
林 ミステリー小説の行間で想像させる部分が、ドット絵だと出しやすかったのかもしれません。
ハ あと、グラフィックのこだわりとしては、林さんも話していた通り、色数を絞ることと低解像度にすることで、ビジュアルのインパクトが強くなるとは思っていました。どのくらいのバランスにするかというところは最初、かなり悩みました。低解像度にするとインパクトは強くなる一方で、ディテールが描き込めないというデメリットもあったので。

SNSの調査、関係者や怪しい場所の探索をすることで都市伝説の“特定”を行う。集めた証拠をもとに、都市伝説の背後にある謎を“解体”した先に見えてくる真実とは…!?
── 先ほども少し話がありましたが、記憶に残る魅力的なキャラクターたちは、どのようにして生まれてきたのでしょうか。
林 前作『和階堂真の事件簿』のキャラクターがものすごく魅力的だったので、より印象に残るように、バストアップにして、顔と身ぶり手ぶりの表情を入れてほしいというお願いを最初にしました。あと、従来のゲーム業界のことでいうと、“このキャラクターは何パターン用意してください”みたいな作り方をしていくのですが、墓場文庫は4人でゲームを作るので、必要な絵を必要な時に必要な枚数だけ増やしていくことに。その結果、キャラクターを深掘りできたかなと思います。
き その中で、ヒロインのあざみちゃんは、作品における一番の顔となる存在なので、可能な限りの顔と表情パターンを作るようにしました。その他のキャラクターは本当に絞って描いています。お話の序盤は、みんな自分の素性を隠すので、淡々として飄々とした代表的な顔が何パターンかあればいいのですが、終盤に差し掛かると、さまざまなことが明かされて盛り上がっていくので、いろいろな表情を出さざるを得ないわけですね。そこでも応用が利く顔に絞る必要がありました。あざみちゃんに引っ張っていってもらうという工夫は、少人数でできることを考えた結果ですね。

「都市伝説解体センター」の職員キャラ ① 福来(ふくらい)あざみ:大学3年生。新人調査員として調査を行ううち、さまざまな怪異に巻き込まれることになる。本作の主人公。
ハ ストーリー自体は、プログラマーのモチキンさんときっきゃわーと僕で作っていますが、多分、それぞれのキャラクターに対する3人の考え方が違っているんです。でも、そのことがキャラクターの多面性や広がりを生み出すことにつながっているのかなと。裏の顔があるなど意外性の部分として生かされているように感じています。また、前作『和階堂真の事件簿』は全部で3作作りましたが、2作目で大量のキャラクターを出した結果、それぞれのキャラクターが伝わりにくい、誰が誰かわからないという失敗をしたと思っているんですね。それ以降、ぱっと見た時のキャラクターのシルエットやサイズ感から変えることを意識するようになりました。
き 『都市伝説解体センター』には、いわゆる悪役みたいなキャラクターが出てきます。彼らのデザインをする時に、最初からめちゃくちゃ嫌な奴だったり、カッコよくないなどマイナスの要素が強すぎて、そのキャラクターを気に入る瞬間が一度も芽生えないということは避けたかったんですね。だから、変な言い方ですけど、最低限の清潔感みたいなものを持たせるとか、何かしら“いいな”と思う要素を入れておくようにしています。見た目が気に入ったのに、あとで「こんなに性格悪いの!?」みたいな気持ちの発展が起こるのではないかとも思いました。実際、「こいつクズなんだけど嫌いになれない」という内容のポストが流れてきたりもするので、そのあたりの見た目の設計は、結構うまくできたのかなと感じています。
林 集英社ゲームズから見ていると、ミステリーというと、すごく硬いキャラクター設定になりがちななかで、少し強めのデフォルメの仕方をした少年誌っぽい作り方をしているのかなと思いましたね。

「都市伝説解体センター」の職員キャラ ② ジャスミン:都市伝説解体センターの現場調査員。本名は止木休美(とまりぎ・やすみ)。あざみの先輩であり運転手。
── キャラクターたちの生き生きとした表情も魅力的でした。
き もともと、お芝居をしていた時期がありまして。日常で会う知り合いや友達を見て、こういう性格の人はこういう癖があるなというストックを結構持っているんですね。ただ、それをそのまま舞台でやると、どうしても地味な動きになってしまうので、ちょっとだけ演出をつけた動きにするのですが、それをキャラクターに落とし込んだといいますか。ちょっとした人の癖みたいなものを、うまく使わせてもらっています―廻屋渉も大変カッコいいです。
き 廻屋に関しては、初期案から本当に形が変わっていないです。彼を魅力的に見せるために、最初のデザインだけじゃなく、それ以降のカットでいろいろな顔の角度を見せる時に、カッコいいと思ってもらいたいと考えて設計していました。私は、「世の中の人が言うイケメンとは何を指しているのか?」ということを、20代の頃からずっと課題として研究してきたので。カリスマ性を出すための線の引き方などは、狙っています。
── ゲームシステムは、どのように決まっていったのでしょう。
ハ 『和階堂真の事件簿』をベースにしているところはありつつ、集英社ゲームズさんから、ただ進化させるのではなく、かなりバージョンアップした作品にしてもらいたいと言われていました。通常の探索以外に、SNS探索や、「特定」と「解体」のシーン、考察して穴埋めする文章問題など、さまざまな要素を開発中に随時追加して、今の形になっています。
林 「特定」と「解体」のシーンに関しては、今作を印象付ける絵が欲しいよねと話したなかで生まれてきましたが、ポーズが出来上がるたびに、新鮮さと良さに驚いていました。墓場文庫はすごく小回りの利く開発チームであり、自分たちの作りたいものに嘘をつかないんだなと感じましたね。すごくキツかったと思いますけれど。
き 墓場文庫に仲間入りをしてからシナリオを書くようになりましたが、もともと私は絵を描く側の人間です。先ほども少し言いましたが、舞台をやっていたので台詞作りはできたとしても、長い文章を書くような経験はしていないし、文章を読むと眠くなってしまう人(笑)。だから、『都市伝説解体センター』は全6話ですが、6話に何か具体的な話などが出てくると、1話から読み直して要素を追加したり、話を書き直す必要があるわけです。大詰めになればなるほど、そのしんどい壁がどんどん高くなっていって。そこは大変なところでしたね。
ハ あと、我々の作品は、エンディングまで到達してもらうことをコンセプトにしているので。ユーザーに最後まで楽しんでもらえることを第一に考えて、とにかく手厚くをモットーに、プログラマーに頑張ってユーザビリティの強化をしてもらっています。僕たちは、もともとゲームをしない人や、ゲームをすることに疲れてしまった人向けに作るというコンセプトがありまして。SNSや他のエンタメで忙しい人たちにとって、コンパクトで手に取りやすい作品を作りたいと思っています。

「都市伝説解体センター」の職員キャラ ③ 廻屋渉(めぐりや あゆむ) 都市伝説解体センターのセンター長であり、日本屈指の能力者。噂の出所を探して考察、解体していく。
── 私たちはなぜ都市伝説に惹かれるのだと思いますか?
ハ 僕はもともとオカルトが好きで、近年は怖い話や怪談もブームになっているのかなと思いますけど、“本当にあるかもしれない”と思うことの楽しさが、惹かれるポイントなのではないでしょうか。
き 今作は、情報を自分の都合のいいように受け取る人たちを描いた、痛いところを突くような内容でもあると思います。とはいえ、SNSのタイムラインなどは、だからこそ盛り上がるし、面白いところもあると思うんです。一口に都市伝説といっても、幽霊っぽいもの、陰謀論のような小難しい話、UMA…と人によって好きなジャンルが違いますよね。人それぞれにこれだけ味わう場所が違うという都市伝説の要素が、あるものを提示された時に選り好みして好きな部分を咀嚼する今の私たちと相性がいいのかもしれません。
林 僕は50代ですが、子どもの頃から口裂け女などの話があるし、おでーんさんの世代だと、2ちゃんねるなどのネットロア(インターネット掲示板などから生まれて広がった都市伝説)も盛り上がりましたよね。そして、若い人からすると新しい文化のようなところもある。いろいろな世代に刺さるテーマなんだと思います。
── 『都市伝説解体センター』もですが、小規模開発の魅力は何だと考えていますか?
ハ クリエイターと創造物が直結していて、アウトプットされたものが作り手個人に由来している点が面白い部分だと思います。他のゲームにはない体験があるはず。
き 小規模開発の場合、クリエイターがSNSのタイムラインに普通にいるんですよね。めちゃくちゃ有名な方がユーザーのみなさんのつぶやきに絡みに行くようなこともあり、それで盛り上がったり。ユーザーは圧倒的に近い距離感で作り手の言動を見ることができ、作り手の言動を見た後にプレイするという、大手の方が作っているゲームをプレイする時とはまた違う味わい方ができているのだろうなと思います。
林 今は、誰であっても頑張ればゲームを作れるようになり、クリエイティブな人たちがゲームで表現できる時代になったと感じています。日本ではヒットしなくても海外で受け入れられるというようなことも、どんどん増えてくるのではないでしょうか。
── 墓場文庫のお二人が好きなゲームはありますか?
き やり込んだゲームでいうと『ファイナルファンタジータクティクス』です。でも、私はその傍らでドリームキャストの『シーマン』をやるようなジャンル縛りのない人間で、オタマジャクシからカエルにまで育て上げ、ちゃんと自然に返しました(笑)。
ハ 僕は、好きなゲームを聞かれた時に『ファイヤープロレスリング』と言うと決めていまして、自分でキャラクターを作れるところが魅力ですね。あと、影響を受けているという意味では、『女神転生』シリーズです。
── 次回作も期待していいですか。
林 集英社ゲームズとしては墓場文庫とまたやりたいと思っていて相談も進めていますが、ありがたいことにヒットの影響で、正直まだてんやわんやしていまして。続編になるか、完全新作になるかも誰もわかっていない状態です。多分、年が明けてから「さて、どうする?」と相談する感じになるのかなと思っています。
── 楽しみにしています!
information

『都市伝説解体センター』
インターネット上に飛び交う都市伝説をテーマにした、連続ドラマ形式のアドベンチャーゲーム。推理ミステリーのようなシナリオとピクセルアートが幅広い支持を集めている。パッケージ通常版(¥3,740、Nintendo Switch、PS5対応)とダウンロード版(¥1,980、Nintendo Switch、PS5、PC〈Steam〉対応)がある。
anan 2473号(2025年11月26日発売)より



























