
いま注目の文筆家のエッセイ、小説などの創作を4号続けて掲載。今回は2498号(2026年6月3日発売)から、影山優佳さんのエッセイ連載 第4回「読んでも意味のない文章」をお届けします。
この文章は、私がかなり落ち込んでいるときに書いた文章だ。
つまり、ほぼフィクションである。
この作品中に登場する人物の心情や出来事は、自分を慰めるためにかなり脚色された可能性もある。つまりは、読んでも意味のない文章である。
……しかしながら、こんな瞬間は経験ないだろうか。
人の愚痴や相談に乗ってあげて、慰めてあげるときに、自分の嫌なことを棚に上げられるということがある。人のためになっている気がするということがある。ちょっとだけ自己肯定感が上がる。
もしかしたら、そんな意味のある文章である、かもしれない。なのでもしも、とてつもなく暇で時間を弄んでしまっているようなことがあったら、ここから先を読み進めて確かめてみてくれたら、私は本当に本当に嬉しい。
自分が25歳まで生きているなんて思わなかったなあ。
四半世紀。地球規模で考えても、この歳まで生き延びていること自体が奇跡であろう。
キリンの平均寿命は約25年。ウマも、カンガルーも、クマも、だいたいまあそのくらいじゃないか。小学校の理科の授業でヒトの平均寿命のグラフを見せられたとき、ドン引きした記憶がある。一般的に私たちは85歳まで生きるのか。私は85まで生きなければならないのか、と。そんなに長いことあるのなら、日々を粗雑に生きても構わないのかもしれない。明日にでもという勢いで懸命に生きたいな、せめて。……と、思い続けて25年。
こんなことは言ってはいけないのだろうが、私は、私が生きながらえているということに、もどかしく、ありがたく、でもそんなことを口に出すことが最も大きな失礼だとわかっているから、そもそもその発想に至ることさえも申し訳なく思う。ということがしばしばある。
そんなとき私の頭の中を駆け巡るのはいつも、はるかに遠い昔話。天井につけられたガラガラの音と、私の掠れた呼吸音だ。
私の幼い頃の記憶といえば、救急車の記憶である。病弱な私はすぐに高熱を出しがちで、毎週のように運んでもらっていた。サイレンの音も、担架の揺れも、点滴が血管を通る感覚も、私の日常。家を地点A、病院を地点Bとするとき、私は意味もなく往復して沢山の学生たちを悩ませる点Pだった。
小学校に入学してからは、朝の全校集会で倒れて保健室から一日が始まることが何度もあった。大したことではないと私も理解していたから、1時間目の途中で教室に向かう。階段を登って廊下を歩いていくと、扉の向こうから先生の声が漏れ聞こえてくる。なんと言っているかわからないくらいの声量で、語尾だけが廊下にこだまする。なるべく迷惑をかけないように後ろのドアからそっと入るのだが、気づかれないわけもなく、一斉に振り向かれる。
いろんな顔と目が合った。またかという顔。サボってんなと言わんばかりの顔。可哀想なやつに向けられる顔。私はそのどれに対しても、どんな顔をお返ししたらいいのかわからなかった。元気そうにするのも違う気がしたし、健気にしょんぼりするのも嘘くさい、というかダサい。
ありきたりに、下唇を噛んで申し訳なさそうな顔をしながら席に着く。サイレントで教科書を開いて、ノートを出して、何事もなかったように、そして音のないため息をつく。細く長い空気が紙面から反射して私にかかる。実に湿っぽい。
体調を崩すたびに、いろんなことを手放した。手が届きそうになると決まって無理難題がひょっこりと横槍を入れてくる。自然の摂理に、ちっぽけな人間1人が抗おうなんてはなから無理な話だというのに、自分の人生が外部要因に支配されているみたいで悔しい。悔しくなる前に、夢を夢と認識することすらやめて、聞き分けの良い子こと影山優佳として生きていくことが、安らかな選択だった。
しかしながら、大人になって、社会人として、誰かに夢を与える仕事をする立場として、義理を通したいし道理を通さなければいけない瞬間が増えた。どうして諦めたのか、どうして頑張りきれなかったのか、詳細に世間に言い訳するたびに、自分がどんどん「可哀想な人」としての輪郭を強めていくような気がして、惨めだった。
自分が怠惰でひん曲がっている人間だという盾を構えることで、そのお気の毒なノンフィクションから距離を取り続けた。私は惨めではない。トラウマを抉られるようなことを言われても、それは私ではなく身代わりの盾が受けているものだと思うと他人事のように思えて心が軽かった。私は惨めではない。
最近もね、もうびっくりしちゃうわよって感じで。お優しくて察しのいいファンのみなさんは感じ取っていることがあるのかもしれないけれど、こっそりと身体を壊して、ひっそりと休んで、あわてて超回復。すると、ずっと元気で仕事ができているみたいになるし、かなり取り繕えているのではと思っている。私はそんな魔法使い。
得体の知れない何かにもがき苦しんでいるたった今は、数々の瞳に映る「影山優佳」にとって必要のない要素で、見せる必要のない情報だ。
なぜなら、この世は超情報社会。必要のない情報は、必要な情報で効率よく上書きされるべきであるからだ。
完璧に厄介な人間が、昨日も今日も呼吸している。
中学生でアイドルになってからというもの、ブログや人の目に触れうるものは全てポジティブな言葉で埋め尽くすように心がけている。
それは良くも悪くも影響を受けやすい性格と、プライドの高さも相まってのことだ。
また、ポジティブな言葉を書き連ねている「影山優佳」に、自分自身の心も引っ張ってもらっているような感覚もある。
雨乞いをするとしないとでは、降水量が変わってくる、と信じてきた結果、今があるように。
私は心を乞うている。
ではたった今、たくさんの人の目に触れるであろうこのエッセイで、しょんぼりなことをつらつらと書き連ねているのは、私のための何であるのだろうか。
これは、遺言のようで、明日私が必ず回収する置き手紙。生きた証がなければ生きた心地がしない、そんな私が今日を生きていると思えるように。選ばれたのは言語化でしたと言わんばかりに。
小さい頃、シャボン玉が羨ましかった。
ふわふわと漂って、どこに留まることもなく、人知れず儚く去っていく。
役割とは何か。生まれる意味は何か。
私たちが一分一秒と生きていて、重力の存在を感じる瞬間はそうそうない。
それなのに、私はいつからこんなにも重くなってしまったんだろうか。
ほんのり死にたい、と思って25年と少し。死にたいというより、理由なく生きていたくない、という感覚に近い。
この世の物事には全て因果、原因と結果があって、人の心にも同じことが言える。
私はというと、私という存在が、生きているだけで誰かの理由たらしめていると思えたことがなかった。
親切にされても、好きだと言われても、裏があるのではと疑り深くなってしまう。自分がそのまま幸せになってはいけないような気がする。愛される義理もないし、人に過剰な期待をかけて喧嘩をするといったこともない。
ところで最近、人生が変わるような出来事があった。自分の全く新しい側面に、新しい人生という可能性を感じてワクワクできるようなことがあった。ああ、私にもまだ知らなかった部分があったのかと脳が跳ね広がる感覚。
しかしその感覚も束の間、またそんな自分に裏切られるんだろうなと怯えてしまった。喜んで、不安になって、ぬか喜びして、距離を取って。相変わらずのじれったい精神的リハビリを続ける日々を過ごしている。
またそのうち、お知らせしたくなるようなことがあれば、しようかな。
私のファンの方々は本当に心が広い。それか、私に似て忘れんぼさんもいらっしゃるのかもしれない。自分のことのように喜んだり悔しんだり、私のように生きてくれる。だから、幸せそうな顔が見たい。
振動は人の心に伝わる。だからその心に伝える。
最先端の無機物にどんどんと余白を奪われていくこの世界で、人を生きることの意義はそこにあると私は信じてきた。
そのために必要なことは、ルーレットのように規則性なく潮流に旗を振られてばかりの他人の評価と、私自身という悪魔性に揺られ、今日を踏み締め続けることだ。
踏み締めるという作業は、もう片方の足を前に進めるために必須の動作であると同時に、その一歩を確実なものにするおまじないである。
と、黄昏れる遊歩道を歩きながら思う。
ここは誰もいない我が家への一本道。ドラマや映画では黄金色に照らされた畦道と頬が印象的に映されるが、私は日焼けするとすぐ変色してしまうので、頬は土に同化する。
現在の私は、愛犬のために敷いたクッションマットの上。ソファまでの距離を踏み締める気力もなく、ぼんやりとにあぐらをかいている。ぽりぽり。ふと改めてここまでの文章を見返す。やれやれ、またこんな愚痴を垂れ流しながら、私は今日もちゃんと生きて帰ってきちゃってるじゃないか。
実に構ってちゃんなやつだ。
そんな私が大嫌いだから、明日はもっと好きになってやる。
フィクションみたいな、読み応えのある人生。
持ち主は、魔法使い見習いの私。
6月10日(水)発売の『anan』2499号からは、石田夏穂さんの連載がスタート!
information
2026年6月10日発売のanan 2499号の特集は「呼吸と体幹」。スタイルなど見た目はもちろん、疲労改善や深い睡眠など体調全般に影響を及ぼす呼吸と体幹についての特集です。しっかり呼吸できているか? 揺らぎない体幹はあるか? のセルフチェックから、呼吸を意識したくびれ&美姿勢獲得のためのエクササイズ。ピラティス、ナイトヨガ、坐禅、大人のバレエ教室など気になる呼吸と体幹鍛えスポット取材まで、さまざまな形で健やかな呼吸とブレない体幹作りを考えます。
開幕直前! のサッカー北中米ワールドカップの日本代表の上田綺世選手、中村敬斗選手のスペシャルグラビアも。CLOSE UPではWEST.の神山智洋さん、JI BLUEの與那城奨さん、池﨑理人さんが登場します!
※ anan 2499号は、通常版とふたつのスペシャルエディションが同日発売。特集内容は同一です。
※ スペシャルエディションの表紙を飾るのは、FIFAワールドカップ2026・サッカー日本代表メンバーに選出された上田綺世選手と中村敬斗選手のおふたりと『崩壊:スターレイル』の謎多き男、千冶・刃さんです。
Profile
影山優佳
かげやま・ゆうか 2001年5月8日生まれ、東京都出身。2023年に日向坂46を卒業。最近の出演作にドラマ『シナントロープ』、『未来予測反省会』など。テレビ東京系『バカリズムのちょっとバカりハカってみた!』、日本テレビ『ウェル美とネス子。』に出演中。今年7月に初のエッセイ集を発売予定。
anan 2498号(2026年6月3日発売)より




























