歌人、小説家の加藤千恵さんとNetflix太田大さんが語る「熱狂とは」

アリーナで、ライブハウスで、スタジアムで…。“現場”で体感することでしか味わえない感動や興奮は、何物にも代え難いもの。そもそも、熱狂とは、どのようなものか。歌人、小説家の加藤千恵さんとNetflixで『ボーイフレンド』や『ラヴ上等』などを手掛ける太田大さんに伺いました。

Index

    Q. 熱狂とは、どのようなものですか?

    形には残らなくても、記憶に残り続けるもの

    熱狂を生むコンテンツが広がりを見せる今、そもそも人はなぜ熱狂を求めるのか。自らもエンタメに心を掻き立てられた経験を持つ歌人・小説家の加藤千恵さんは、背景にある心理をこう推察する。

    「好きな存在がいることは、日常に何かしらの刺激をもたらしますよね。また、現実の恋愛や人間関係よりも気軽ですし、自己肯定感が決定的に損なわれることがないのも大きいのでは」

    また熱狂の現場に赴くことにはチャージ的な側面もあるという。

    「日常にはしんどいことが多いから、キラキラしたものに触れる時間が張り合いになっている人は多いはず。そう考えると、熱狂がくれるものって“日常に戻っていける力”なのかなと思うんです」

    熱狂が拡大している理由としては、楽しむツールの多様化を指摘。

    「今は本当にあらゆるものがあるので、好きなものを見つけやすくなりましたよね。その分、人とかぶることも少ないけれど、SNSで仲間を見つけたり、気持ちを共有したりできるように。そういったSNSでの連帯や布教活動をはじめ、人やコンテンツと繋がるツールの増加は熱狂にかなり影響していると思います。私は昔からラジオが好きなのですが、かつては放送時間に合わせて一人で聴くものという印象でした。それが今はタイムフリーでいつでも聴けるようになりリスナー層が拡大。リアルイベントも増え、人と一緒に楽しむことが当たり前になった気が。一方で、変わらず一人で聴くのが好きな人もいて、コンテンツの受け取り方自体も多岐にわたってきているなと感じます」

    では、加藤さん自身がこれまでに経験してきた熱狂とは?

    「10年ほど前は岡村靖幸さんのライブツアーで全国を回っていましたし、ももいろクローバーZにハマった時期も。私にとって、心を動かすコンテンツは人生の必需品。寝て起きて仕事して…というだけでは単なる“生活”にすぎないので、エンタメの存在が不可欠なんです。とはいえ、今は育児もあって浅く広く楽しむスタンスなので、熱狂している人が羨ましくもあって。推しを励みに仕事を頑張ったり、チケットの当選祈願で行いを良くしたり。どの人もみんな幸福そうで、見ているこちらもグッときちゃいます」

    それらの経験で得たものを尋ねると、こんな答えが。

    「本当に楽しい時間だったので、思い出すと幸せな気持ちになれる。形として残っていなくても、記憶には残り続けるんだと思います」

    人の心を突き動かす熱狂は、今後どこへ向かうのだろうか。

    「これまで話したことを裏返すようですが、熱狂って言語じゃないものが詰まっているとも思っていて。言語化できずに体内をほとばしるものが熱狂であり、それを求める気持ちは普遍的なもの。古の時代からお祭りがあるように、人間の根底に存在しているのだと感じます。だからこそ、この先もツールの変化に合わせて自然に形を変えながら、人々の中で熱狂は続いていくのではないでしょうか」

    お話を伺った方

    Profile

    加藤千恵

    歌人、小説家 1983年生まれ、北海道出身。2001年に初短歌集『ハッピーアイスクリーム』を出版。著書に『今日もスープを用意して』(ポプラ社)などがある。Podcast『朝井リョウ・加藤千恵信頼できない語り手』は毎週金曜18時に配信。

    Q. 熱狂とは、どのようなものですか?

    興味や行動軸を広げ、前進するための第一歩

    『ボーイフレンド』や『ラヴ上等』など、Netflixのリアリティショーをはじめとしたアンスクリプテッド作品(脚本のない作品)を手がける太田さん。数々のヒット作品を生んだクリエイターが捉える、この時代に熱狂を生むエンタメの共通点は?

    「どのジャンルも熱狂の背景には魅力的なストーリーが存在し、そこに共感して自分が更新される感覚が、多くの人にも伝播することで高い熱量を生むのだと感じています。それ自体は今に限ったものではないけれど、現代はデバイスなどが増えたことでこれまで気づかれなかった熱狂までもが可視化されている気がします」

    自身の作品が国内外で熱狂を生んだ理由に関しては「視聴者の方がリアルな体験だと感じてくれたことが大きいのでは」と分析する。

    「作られた像ではなく、同じ世界に生きる人物が本気で発した言葉にこそリアリティが宿る。『ラヴ上等』の『水はヤベェだろ』(※参加者同士のトラブルが発生した際に生まれた名言)のように、人と人の間に生じる化学反応に触れることが映像作品におけるリアルな体験といえるのかもしれません」

    それらの“リアル”を生むために制作側が意識していることは?

    「化学反応が起きなくてもそれはそれでウェルカムですが、参加者が他者を理解するきっかけとしてイベントを用意することはあります。一方、ルールで縛りすぎないことも重要。『ボーイフレンド』で告白が必須ではないのもその考えからで、宝物のような時間を過ごしたくて参加した参加者たちの熱量や感情を曲げる必要がないペースでの表現を心がけています」

    参加者と視聴者の熱量を保つた歩めに重要な点がもう一つあるそう。

    「やっぱり参加者が安心して過ごす姿を見せることが、視聴者の方に安心して楽しんでもらうための必須要素だと思うんです。参加者が『出てよかった』と感じられるような、気持ちが上がる空間作りはかなり大切にしています」

    特集では様々な熱狂を紹介するが、映像作品だからこそ誘える熱狂とはどのような形なのだろうか。

    「実は空間作りと同じくらい大事にしているのが音楽で、それがまさに映像作品ならではの熱狂を生む要素だと考えています。企画を立てる際は参加者や撮影場所に先がけてどの音楽を使いたいかを考え、制作チームにも伝えたり、共にアイデアを出し合ったりします。そうやって根底にある世界観を共有することが、作品の統一感に繋がる部分も。それと同時に、音楽って感情のコアがダイレクトに伝わるものだと思っています。作品で描かれる人間ドラマの感情が音楽で補完されることで、現場に足を運んだ時とはまた違う熱狂が生まれるのではないでしょうか」

    最後に、熱狂が人々に何をもたらすと思うかを尋ねた。

    「興味や行動軸が広がる最初の一歩は熱狂。心の血液がガーッと動く瞬間が自分にあると気づくことで、背中を押されることになる。動き出す方向や歩幅は人それぞれ違うけれど、結果的に人生がより豊かになると思います」

    お話を伺った方

    Profile

    太田大

    Netflixコンテンツ部門マネージャー。2022年よりNetflixにて『ボーイフレンド』や『ラヴ上等』などのアンスクリプテッド作品(脚本のない作品)を手がけている。自身が熱狂しているのは「素敵なPodcastを探すこと」。

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    イラスト・電Q 取材、文・真島絵麻里


    anan 2494号(2026年5月1日発売)より

    Check!

    No.2494掲載

    熱狂の現場 2026

    2026年05月01日発売

    いま人々の心を熱くするエンタメの現場に迫る「熱狂の現場 2026」特集。熱狂を生み出す現場からの熱い思いを伺いました。

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