若くして介護していても人生は続く。主人公の胆力に、感服しまくり。
ヤングケアラーの主人公・沙智が、家族や周囲をドライに見つめながら我が道を踏みしめていく突き抜け方がカッコよく、読後、パワーをもらえること請け合い。
「介護という現実は悲劇的に見られがちですが、そういう定型ストーリーの外側のところを書きたかったというか。ふっと笑えるようなシーンをところどころに入れることで、俯瞰した目線を常に持とうというのは、自分なりの課題でした」
介護の話なのに笑っていいのか、と戸惑うことなかれ。小説自身が、笑ってほしいと全力で読者をくすぐりにくる。たとえば、お母さんの涎や口中が鮮やかな青色になっているのを見た沙智が、お母さんに〈ブルーレットの詰め替え用飲んだ?〉と聞き、〈飲むわけないやん〉という答えが返ってくるコントのようなシーン。背丈も体格もほとんど同じだからこそ、沙智が母親の排泄介助をしている最中は身を張ったドタバタになるシーン等々。
「母をトイレに連れていくために悪戦苦闘するのは実体験でもあります。その身体感覚をなるたけそのまま再現できたらいいなと。沙智の視点を通して眺めている実家の八畳間に、読者も一緒にそこにいるような感覚、そんなリアリティが出せたらと思っていました」
ヤングケアラーは孤立しがちだが、沙智には、理解ある担任教師もいれば、障害年金のような公的支援もある。処方薬を替えたら、母は劇的によくなった。だが、そうした善意や権利やサポートや正しい言葉だけでは何も救われないのだという憤りも、同時に伝わってくる。
「R‐18文学賞をいただいたときの『受賞の言葉』にも書いたのですが、作家の中島らもさんの『その日の天使』というエッセイに強く影響を受けているんですね。そこに書かれていたこと――、どんな絶望的な状況の中でも、外から偶然湧いてきた何か、しかもその相手は何も意図していないものにふっと救われてしまう瞬間はある、というようなところはいつもすごく意識しています」
沙智にとっては、表題作の終盤で描写された、畳みかけるようなお笑いのミラクル、それを手放さないことが命綱だった。
「泣いてんじゃねえよ」「縋ってんじゃねえよ」と話が進むにつれ、ちょっとずるくて自分が可愛い両親との共依存関係に気づいた沙智は、自分自身を見つめ直し、ある答えにたどり着く。〈「わたし、『見てるよ』って言いたいのかもしれません」〉
「大人になった自分が、高校時代の自分に声をかけるならなんて言うかな、と考えたとき、出たのがこの答えでした。いま生きづらさを抱えてる若い人たちに、この物語が届けばいいなと思っています」
PROFILE プロフィール

上村裕香さん
かみむら・ゆたか 2000年生まれ、佐賀県出身。京都芸術大学大学院在学中。双葉社「WEB小説推理」にて「一発屋と永遠」を連載中。小学館「STORY BOX」の連載「ほくほくおいも党」が書籍化予定。
INFORMATION インフォメーション
『救われてんじゃねえよ』
難病の母の介護と家事をほぼ一手に引き受けるヤングケアラーの沙智。17歳、大学3年生、社会人1年目という時間軸で描かれた3編を収録。新潮社 1540円
anan 2443号(2025年4月16日発売)より