
漫画『極楽にはまだ早い』の作者、天野実樹さんにインタビュー。
互いを知ることで生じるズレも含め丁寧に描きたいです
主人公は江戸時代の処刑人。死刑となった罪人の首を斬る仕事は「穢れ」とされ、町民から忌み嫌われていた。そんな特殊な職業に注目した理由を天野実樹さんはこう語る。
「物語を構想するとき、キャラクターから考えることが多く、孤独な人を描きたいという思いがまずありました。そういう人が誰かと関係を深めていく展開を、描くのも読むのも大好きなので。同時に、江戸時代に興味が向き調べていた際、処刑人という職業を知り、このキャラクターを生かせる設定だと思ったのです」
首討ち役を代々務めてきた藤田家の八代目である雪成は、物心がつく頃から家業を継ぐことを当然のように受け入れてきた。しかし処刑人という宿命を背負った彼に対して、周囲は冷たく残酷で、いつしか雪成は心を閉ざすようになってしまう。
「差別や偏見にさらされる職業といえますが、雪成をかわいそうな人として描かないように気をつけています。世襲とはいえ無理やりやらされているわけではなく、自らの意志で誇りを持って仕事をしている姿を、しっかり描きたくて」
物語は、罪を犯さざるを得なかった者の事情や、遺された人たちの思いなども細やかに描くことで、雪成の葛藤と重圧を際立たせていく。

Ⓒ天野実樹/KADOKAWA
「雪成は、仕事とプライベートの表情を描き分けています。仕事のときは基本的に無表情。感情を入れると腕が狂うので無になっているのですが、それ以外のときは18歳の青年らしい純粋さを表現したいと思っています。孤独な人を描きたかったとお話ししましたが、雪成はそもそも他者と関わることを諦めているので、動かすのが意外と難しくて。事件や騒動に巻き込んでくれる、周りのキャラクターに頼っています」
雪成と積極的に関わろうとする数少ない人物のひとりが、同心(犯罪捜査を行う役人)の立花。仕事のため手段を選ばない非情な一面を持ち、“罪と向き合う”という意味では同じ側にいるものの、情に厚い雪成と価値観が大きく異なるのも興味深い。そして人を裁くのではなく、あくまでも刑の執行役である雪成は、ひとりの人間が内包する善も悪も静かに呑み込んで、職務を全うする。
「無知による偏見、他人の間違いを糾弾する風潮など、現代人が共感しやすいテーマを意識的に入れ込んでいます。雪成の立場は他者と関わるほど感情の振れ幅が大きく、しんどくなると思うのですが、それでも人と関わる道を歩んでほしい。簡単に理解できる境遇ではないけれど、互いを知ることで生じるズレも含め丁寧に描きたいです。…といったことを考えていますが、同時に、男性キャラの魅力をシンプルに楽しんでもらえたなら、とても嬉しいです!」
Profile
天野実樹
あまの・みき マンガ家。著作に、心配性の執事とおてんばなお嬢様が織りなす日々を描いたコメディ『ことり文書』(全3巻)など。Xは@amantofu
information
『極楽にはまだ早い』2巻
「穢れ」の職として忌避された処刑人を家業とする、藤田雪成。今より死が近い江戸時代、罪人たちと対峙しながら人間の業を浮き彫りにする連作シリーズ。KADOKAWA 946円
anan 2505号(2026年7月22日発売)より

































