
小説『愛子さん』の作者、中脇初枝さんにインタビュー。
戦争って、終わっても終わりがない
これまでも、戦争と戦争が人生にもたらす傷をたびたび書いてきた中脇初枝さん。本書『愛子さん』もまた、日常をゆっくりと変質させ、誰かの人生を長く支配し続ける戦争の終わりのなさを描いた。
「併録の『穴の中の戦争』は、もともと10年ほど前に戯曲として書き、依頼があって小説で書き直したものです。私は以前にも、『世界の果てのこどもたち』で、横浜大空襲時の白楽で、町内の子ではないからと防空壕に入れてもらえなかった少女を、沖永良部島を舞台にした『神の島のこどもたち』では、泣き声で敵に見つかるからと、防空壕から追い出された、赤ん坊の弟を連れた少女と少年を書いたことがあります。防空壕に、人々が一斉にそこへ逃げ込む光景。象徴的な戦争風景として語られがちですが、考えてみれば異常ですよね。それすらやがて異常と思われなくなっていくのが戦争なんです」
そんな中で小学生の美智子が〈防空壕なんか入りたくない〉と反発するさまは、いじらしくも力強い、戦争批判のように見える。
続く表題作「愛子さん」の執筆の出発点になったのは、2008年に見た小さな新聞記事だそう。秋葉原無差別殺傷事件から間もないころ、渋谷で79歳の女性が20代の女性ふたりを刃物で傷つけた事件があった。被害が軽微だったのか、大きく報じられることはなかったが、
「若い女性を狙う無差別事件の加害者は男性が多いので、高齢女性だったことにまず驚きました。そして初公判の記事で、『戦争で苦労した経験から若い女性を妬んでいた』と読んで、本当に衝撃を受けたんです。60年以上たっても彼女の戦争は終わっていなかったんだと。ただ、戦争で苦労し、その痛みを消化できないまま生きてきた女性を想像するのは難しくなかった。戦争で味わった女としての苦労と、戦後を女ひとりで生き抜く苦労は、地続きに感じられるからです」
「穴の中の戦争」が防空壕という空間から戦争を見つめる作品なら、「愛子さん」は防空壕を出たあとの人生を見つめる作品。いわば、戦時中から現代という、一つながりの人生として戦争を描いた姉妹作なのだ。
「戦争って、終わっても終わりがない。戦争を知る世代にも戦後しか知らない世代にも、ずっと影響を与え続けるのだと改めて思いますね」
Profile
中脇初枝
なかわき・はつえ 徳島県生まれ、高知県育ち。高校在学中に「魚のように」で坊っちゃん文学賞を受賞し、デビュー。2013年に『きみはいい子』で坪田譲治文学賞を受賞している。
information
『愛子さん』
「穴の中の戦争」は、戦時下も子どもたちの無邪気さに救われる物語。「愛子さん」の語り手が経験する孤独や貧困はいまも女性にのしかかる。講談社 2365円
anan 2505号(2026年7月22日発売)より

































