いま世界をつなげるカルチャーから読み解く、現代の他者とのつながり方。
現代のつながりを生むカルチャーと背景とは。
他者とつながる大きなきっかけといえるのが、“好き”なカルチャーが共通していること。なかでも、いま人々を惹きつけているカルチャーに注目してみると、つながりを生む5つのキーワードが浮上。その要因を、文学、エンタメなど幅広い分野で批評や解説を行っている、文芸評論家の三宅香帆さんに読み解いてもらうことに。
まずは、「言語化」でのつながりについて。昨今は、映画やドラマなどの考察ブーム。また、推しの魅力を語るなど、言語化に長けている人が支持を集める風潮に。
「言語化が重視されるようになった背景には、ITの進化が関係しているように思います。ひと昔前なら、知識の豊富な人が尊敬や憧れの対象でしたが、いまはAIに聞けば大概のことがわかる時代です。知識を持っているのは大前提として、それをどう解釈して、自分の言葉にするか。例えば、ドラマの考察でも“正解”より、その人独自の視点で綴られた言葉のほうが、リポストなど、つながりを生みやすいと思います」
また、ネットでのコミュニケーションは、SNSの公開範囲を限定したり、素の自分を共有するアプリ「BeReal.」が台頭したりと、同じ価値観を持つ「界隈」でのつながりを求める傾向へ。
「とくにソーシャルネイティブ世代は、バズる=炎上するリスクと捉えている人が多いのでは。ネットにはいろんな意見を持った人がいるので、オープンな場で発信すると、思わぬ軋轢を生む可能性があります。心地よくコミュニケーションをするうえで、界隈を選ぶ人が多いのは納得です」
エンタメからは、リアルさを増したオーディション番組やリアリティ番組が登場。出演者の苦悩や成長という「物語」により、多くの人が同じ思いでつながっている。
「例えば、timeleszが、新メンバーを探す過程に密着した番組『timelesz project‐AUDITION‐』が、その一つ。アイドルというキラキラした世界を舞台にしていますが、出演者たちの生身の奮闘には、自分事にも置き換えられるような身近さがある。だからこそ、共感の輪が広がりやすいのだと思います」
リアルといえば、バーチャルの世界もよりリアルに進化。その筆頭が、K-POPバーチャルアイドル「PLAVE」。モーションキャプチャーを活用した高い技術で表現された表情やパフォーマンスなど、「リアルすぎるバーチャル」が言語を超え多くのファンを獲得。世界の人々をつなぐ存在に。
「いまはアイドル自身が魅力的であれば、実在の人間かバーチャルかということは、もはや関係なく好きになる人が多いように思います。そのうえでバーチャルだからこそ実現できる演出など、夢中になれる要素も多々ありそうです」
一方、日本のカルチャーが世界とつながる動きも加速。今年はAdoが日本人アーティストとして過去最大級規模のワールドツアーを開催。ドラマ『SHOGUN 将軍』が、海外の名だたる賞を受賞したことも話題に。
「ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手は、その最たる例ではないでしょうか。海外で支持されている人やモノの共通点には、技術や質の高さに裏打ちされた『安心感』があるのかも。社会的に不安定な要素が多い時代だからこそ、求めたくなるのだと思います」
connect1 言語化でつながる
好きなカルチャーをいかに「言語化」するか。それが独自の言葉であるほど、他者とつながる可能性が増す。
「自分オリジナルの言葉を磨くためには、映画やドラマなど何か見た時に感動した箇所を、細かく具体的に挙げることが有効です。その作業をする前に、人の感想を見ると影響されてしまうので、“見る前にメモを取る”癖をつけましょう」
connect2 界隈でつながる

ネットには、自分と違う意見の人が多数存在。思いもよらない理由で知らない人から絡まれないように、人間関係は友だち限定のSNS など、深く狭い「界隈」で深める人が増加中。
「新規の『界隈』を開拓するなら、趣味にまつわるリアルイベントに参加するのがおすすめです。同じ価値観の人を見つけやすく、対面という安心感もあります」
connnect3 物語でつながる

最近のオーディション番組やリアリティ番組は、等身大のドキュメンタリーであることがヒットのカギに。そんな人間味溢れる「物語」から感じ取れる、他者とつながるヒントとは?
「自分をよく見せようとしすぎず、悩みなど弱い部分も共有することではないでしょうか。ただ、それも相手や自分の負担にならないような匙加減が必要になるかと思います」
connect4 リアルすぎるバーチャルでつながる

バーチャルアイドルの進化など、リアルと仮想空間の境界線が、体感的にはシームレスに。
「とはいえ『リアルすぎるバーチャル』は、ファンタジー的な魅力も大きいと思うんです。そんなバーチャルな世界線でのすべてをさらけ出さないスタンスは、参考にしたいところ。それがネット上では結果的に、自分を守りつつ、他者とつながる術になるからです」
connect5 安心感でつながる

日本のカルチャーで、いま海外でも人気となっているのは、日本人も“これは間違いなし”と太鼓判を押すような「安心感」のあるラインナップ。
「『安心感』は、不安定ないまの時代に他者とつながるうえでの重要なキーワード。自分のなかにも養うには、やはり自信となるスキルを磨くことだと思います。あとは、批判的にならないようにすること」
PROFILE プロフィール
三宅香帆さん
文芸評論家。京都市立芸術大学非常勤講師。著書に『「好き」を言語化する技術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。文学のほか、映画、ドラマ、漫画、アイドルなど、生粋のエンタメ好きでもある。
anan 2436号(2025年2月26日発売)より