『名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)』新監督×脚本家対談

エンタメ
2025.04.26

コナンの劇場版では過去3作の演出を担当、今回『名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)』で初めて監督を務める重原克也さんと、名作刑事ドラマを多数書いている脚本家の櫻井武晴さん。監督と脚本家という立場では初めてタッグを組んだ二人に、“骨太なサスペンス”が生まれた背景について、聞きました。

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新監督×脚本家対談で見えてきた、老若男女が楽しめる超本格ミステリーの作り方。

――重原監督は、今回が初監督作品と伺っています。命を受けたときの感想を教えてください。

重原:『黒鉄の魚影(サブマリン)』の制作をしているときに、サラッと「監督って興味ある?」と言われたんですが、まさか本当に実現するとは思っていなくて。その後正式に依頼をいただき、毎作行われているという青山(剛昌)さんを含めみなさんとの打ち合わせに同席して、そこからですね、現実感が出てきたのは。その日以降、ものすごく気が引き締まりました。

――過去6作脚本をご担当されている櫻井さんですが、初監督の方とご一緒されるのはどうでした?

櫻井:僕は過去にも『名探偵コナン』の劇場版で初監督とご一緒した経験が2度あるので、特にそこで身構えることはなかったですし、重原さんは過去に劇場版の演出を担当されたと聞いていたので、不安もありませんでした。

――今回は櫻井さんのところにお話が行った時点では、どの程度内容は決まっていたんですか?

櫻井:あらかじめ聞いていたのは、長野県警がメイン、公安の降谷(零)を出したい、くらい。「大和敢助の過去の話をやろう」というアイデアは、打ち合わせの席で青山先生から提案がありました。そこで、「敢助の過去ということは隻眼の話になるので、雪崩はマストですね?」など、細かいことの確認をしていくわけですが、確認しながら脚本上使わなければならないアイテムを一つ一つあぶり出し、それを使ってお話を作っていく、みたいな感じです。

重原:その打ち合わせに僕は初めて参加したんですが、本当になにもないゼロから話を作り、さらに深掘りしていくのか…と、驚きつつ感動したのを覚えています。

櫻井:ちなみに『ゼロの執行人』を書いたとき、“公安の降谷”に関しては原作でもほとんど触れられていない話だったので、すごく自由に想像を膨らませられたんです。でも今回の長野県警は、回数は少ないですが原作の中にエピソードがきちんとあって、それを踏襲しなければならなかったので、自由度がない分苦労はしましたね。

――公安を出すための仕組みというのもそこで考えたのですか?

櫻井:はい。もともと公安は暗躍するもので、表で捜査一課、つまり警視庁組がちゃんと動くからこそ、公安の暗躍感が出る。2つは光と影みたいなものなんです。安室(透/降谷)が出るとなると、コナンの動き方も変わってくる。となると、警視庁組と一緒に捜査ができるレギュラー陣は誰だ…? となり、僕が「小五郎をいつもよりしっかり出させてください」と、青山先生に提案しました。

重原:もともと長野県警組がメインと聞いた時点で大人な話になりそうだな、とは思っていたんですが、そこに小五郎が加わると聞いて、これはもう地に足がついた骨太な刑事ドラマになるのは間違いないと、ワクワクしましたね。

櫻井:そうだ、かつて警視庁で小五郎の同僚だった鮫谷、通称ワニという男が出てくるんですが、彼、当初は樺山とか椛島という名字で、通称も“カバ”だったんです。でも青山先生が、「ワニにしよう」と。どうやら先生の故郷の鳥取ではサメのことをワニというらしく。

重原:鳥取が舞台の日本神話『因幡(いなば)の白兎』にそういう描写があるそうなんです。僕もその話を聞いて、ちょっとした場面の演出にウサギのモチーフを忍ばせたりしているので、そんなところも見てもらえると嬉しいです。

櫻井:僕、試写を1回見ただけですが、気が付きましたよ(笑)。

重原:嬉しいです! 脚本の内容をいかに絵で上手く伝えるかが僕らの仕事なので、本当によかった。

――ちなみに、長野県警組が出てくるということは、諸伏高明の故事成語も必須ということですよね。

櫻井:僕にとっては故事成語は今回一番の難関でしたね。その場面にピッタリの言葉が見つかっても、正確な読み方が定まらなかったり、出典が見つからなかったり…。結局アフレコギリギリ、昨年末くらいまで出典を調べたりしてました。

重原:これまでのコナンでは、高明が故事成語を言うたびに蘭が意味を解説する、という構造があって、僕は正直そこにあまり意味を見出していなかったんです。でも今回自分で監督として映画を俯瞰したときに、蘭ちゃんがいることで物語がとてもわかりやすくなる箇所がたくさんあったことに気付かされました。特に今回は本格的な警察ミステリー作品で、複雑な箇所も多い。この作品は、コナンくんに向かって大人がわかりやすく説明をしたり、警視庁の人が小五郎に解説することで、物語を噛み砕いてくれているんですよね。コナンが幅広い世代に愛される理由を、改めて実感しました。

――今回の舞台になった長野には、視察などに行かれたんですか?

櫻井:はい。天文台でパラボラアンテナの見学をし、炭焼き小屋では炭焼きの工程を教えていただきながら、窯の構造も見学させてもらいました。そこで教えてもらったことを、シナリオに随分盛り込みましたよ。行ったのは夏だったんですが、そうそう、監督は冬山も行かれたとか?

重原:はい。雪深い中で稼働している炭焼き小屋を見せてもらい、「この距離でもこんなに熱いんだ…」とか、実感してきました。

櫻井:実際に見て感じるって、フィクション作品においても、大事ですよね。

――試写の際、重原さんは青山先生の隣でご覧になったとか…?

重原:はい(笑)。ドキドキで、スクリーンよりも青山さんの反応が気になってしまって…。でも笑ってくれていたので、よかったなと胸をなでおろしました。

櫻井:僕も早く映画館で観たいですね。いつも最初と中盤、あと終わり際と3回行くようにしていて。時間が経つと、お客さんの反応も変わるんですよ。それを見ながら、「何度目のお客さんかな…?」とか考えるのが楽しいです。

重原:ドルビーシネマとか4D上映とか、いろんなスクリーンで観てみたい。あと応援上映があったら行きたいですね。みなさんと一緒に盛り上がりを体感したいです。

PROFILE プロフィール

重原克也さん

しげはら・かつや アニメ監督、アニメーター、演出家。1984年生まれ。これまで『ゼロの執行人』(2018年)、『紺青の拳(フィスト)』(’19年)、『黒鉄の魚影(サブマリン)』(’23年)で演出を担当。

櫻井武晴さん

さくらい・たけはる 脚本家、プロデューサー。1970年生まれ。ドラマ『相棒』と『科捜研の女』の脚本を長く担当。コナンでは『絶海の探偵(プライベート・アイ)』(2013年)以来、今作で7作目の脚本。

INFORMATION インフォメーション

『名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)』

長野県の山中で、県警の大和敢助が男を追跡中雪崩に巻き込まれた。10か月後に国立天文台野辺山の施設研究員が何者かに襲われる。一方東京では小五郎が昔の同僚と再会の約束を。しかし待ち合わせ場所に行くと銃声が!! ゲスト声優に山田孝之と山下美月が出演。原作/青山剛昌 監督/重原克也 脚本/櫻井武晴 主題歌/King Gnu「TWILIGHT!!!」Ⓒ2025 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

取材、文・河野友紀

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